韓半島の春,境界線、互いに越えた南北首脳

北朝鮮の指導者が史上初めて韓国側に入って開かれた南北首脳会談。27日、2人の首脳は、笑顔を見せながら軍事境界線上で固く握手を交わし、親密ぶりを演出した。 韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は27日、南北の軍事境界線をまたぐ板門店で11年ぶりの首脳会談を行い、朝鮮半島の「完全な非核化」実現を目標に掲げた「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」に署名した。1953年7月から休戦状態にある朝鮮戦争を年内に終わらせる意思を確認。文氏が今秋、平壌を訪問することでも合意した。

北朝鮮の指導者が史上初めて韓国側に入って開かれた南北首脳会談。27日、2人の首脳は、笑顔を見せながら軍事境界線上で固く握手を交わし、親密ぶりを演出した。

 板門店北朝鮮側地域では、この日朝から、通常の兵士に代わって背広姿の警備要員が警戒に就いた。

 午前9時27分、黒い人民服に身を包んだ金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が、北朝鮮施設「板門閣」から警護要員に囲まれて姿を現した。

 紺のスーツに青いネクタイを締めた韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が、軍事境界線で待ち受ける。正恩氏は軍事境界線まで、一人でゆっくりと徒歩で進んだ。

 両首脳は午前9時29分、軍事境界線上で握手した。笑顔で言葉を交わした後、9時30分に正恩氏が韓国側地域に足を踏み入れた。韓国合同取材団によれば、正恩氏は「心がときめいて止まりません。歴史的な場所で会ったのですから」とあいさつ。文氏は「ここまで来られたのは大きな勇断でした」と話しかけた。

 すると今度は、正恩氏が文氏に北朝鮮側に入るよう促した。2人は手をつないだまま、北側にも一度入った。予定外のできごとだった。

 両首脳は、会談を行う「平和の家」に徒歩で向かった。両首脳を迎える韓国の儀仗(ぎじょう)隊は、朝鮮半島の伝統服に身を包み、伝統音楽を奏でた。正恩氏は文氏と共に徒歩で移動しながら笑顔を見せた。一方で、周囲に視線も飛ばし、緊張した様子も見せた。正恩氏の実妹、金与正氏はグレーのスーツ姿。儀仗隊の外側から、両首脳の歩みを見守るように随行した。

 「平和の家」前での記念撮影は、当初首脳2人による撮影が予定されていた。だが正恩氏が周囲に話しかけた後、南北の随行員を交えた撮影に変わった。

 午前10時16分。「平和の家」で両首脳が再び向き合った。首脳会談が始まった。

 正恩氏は笑顔で「歩いてみると、とても簡単に越えられた」と軍事境界線を越えた瞬間を振り返り、「平壌から苦労しながら平壌冷麺を持ってきた。召し上がってください」と語りかけた。文氏も満面の笑みで応え、「韓半島の春が真っ盛りです。韓半島の春に、全世界が注目をしています」と話した。

 韓国側は任鍾晳大統領府秘書室長と徐薫国家情報院長、北朝鮮側は金英哲党副委員長と金与正氏が同席した。与正氏は、正恩氏の言葉をつぶさに書き留めているようだった。午前中の会談は午前11時55分まで続いた。

 北朝鮮の官営メディアは昨年末まで、文在寅政権について「同族対決を追求している」「北南関係は落第だ」などと厳しく批判してきた。だが今年1月1日の金正恩氏の新年演説で態度を急変させた。

 文氏の外交ブレーンらによれば、文氏に近い国会議員やブレーンらが昨年5月の政権発足後、中国などで繰り返し北朝鮮側と接触し、南北関係の改善を訴えてきた。北朝鮮側は「どんな状況になっても、文政権はついてくる」(関係筋)と判断し、南北対話に踏み切ったという。

 関係筋の一人によれば、北朝鮮は27日の首脳会談について、「米朝首脳会談に結びつけるためにも失敗が許されない会談」と位置づけている。米朝は現在、米朝首脳合意に具体的な非核化措置を盛り込むかどうかで、水面下で綱引きを続けている。南北会談が成功すれば、米朝会談に向けて韓国の側面支援を得られると計算しているという。

 労働新聞(電子版)は27日、「今回の首脳会談は金正恩委員長の熱い民族愛と確固たる統一の意志、大胆な決断と雅量によってもたらされた歴史的な出来事である」と強調した。

 南北関係改善を政権の最重要課題に位置づけてきた文政権も、会談を成功させたい思惑では同じだ。首脳間で良好な信頼関係を築くことに成功すれば、米朝合意後に改めて南北首脳会談を開き、本格的な関係改善を話し合う道も開けると考えている。

 韓国の一部には「人権侵害を続けている金正恩氏を手放しで称賛して良いのか」という声も出ている。(高陽=牧野愛博)朝日新聞デジタル

 

韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と北朝鮮金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長は27日、南北の軍事境界線をまたぐ板門店で11年ぶりの首脳会談を行い、朝鮮半島の「完全な非核化」実現を目標に掲げた「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」に署名した。1953年7月から休戦状態にある朝鮮戦争を年内に終わらせる意思を確認。文氏が今秋、平壌を訪問することでも合意した。

 南北首脳による会談は、2000年に金大中(キムデジュン)大統領、07年に盧武鉉(ノムヒョン)大統領が、それぞれ北朝鮮金正日(キムジョンイル)総書記と平壌で会談したのに続いて3回目。北朝鮮の指導者が韓国側に入ったのは史上初めてだ。

 会談は、板門店の韓国側の施設「平和の家」などで行われ、うち約30分間は随行者を伴わず、野外のベンチで2人だけで協議した。宣言への署名後、正恩氏は初めて、韓国など西側メディアの前で記者発表した。

 会談では、①朝鮮半島の非核化②恒久的な平和の定着③南北関係の進展が主な議題になった。

 最大の焦点である非核化について宣言は、「南北は完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認した」と明記した。ただ「完全な非核化」の具体策やその手法、期間は記されなかった。正恩氏は共同発表では、非核化や対米関係などに一切言及しなかった。

 正恩氏は6月初めまでに、「非核化の唯一の交渉相手」とみなすトランプ米大統領と会談する見通しだ。「完全で検証可能かつ不可逆的な核廃棄」を短期間に行うよう求めるトランプ氏との会談で、正恩氏が非核化にどのように応じるかが注目される。

 一方、宣言には南北の平和構築と関係改善に向けて多くの要素が盛り込まれた。

 朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和協定」に転換するため、韓国、北朝鮮、米国の3者、または中国を加えた4者の会談開催を積極的に進めていくとした。軍事的緊張を緩和するため、5月から軍事境界線一帯での敵対行為を中止し、幅4キロの非武装地帯(DMZ)を、「実質的な平和地帯」に変えることも掲げた。

 「南北関係の進展」をめぐっては、8月のジャカルタ・アジア大会での南北共同入場や、北朝鮮・開城(ケソン)への南北共同連絡事務所の設置などを盛り込んだ。南北の鉄道や道路の連結といった経済協力にも触れたが、国連安全保障理事会による経済制裁北朝鮮に科せられているため、今後、国際社会の反応をみながら南北で経済協力を模索していくとみられる。両首脳は定期的な会談と直通電話を通じて、課題について議論を続けることでも一致した。

 記者発表で文氏は「朝鮮半島でこれ以上戦争は起きない」と強調。過去の数々の合意が実現しなかったことを念頭に「我々は決して後戻りしない」と述べ、正恩氏も「歴代の合意のような残念な歴史が繰り返されないようにする」と語った。

 会談の場所となった板門店は、約3年続いた朝鮮戦争の休戦協定が1953年に結ばれた場所。正恩氏は、分断の象徴である境界線を示す高さ5センチ、幅50センチのコンクリート製の仕切りを歩いて越え、韓国側に入った。出迎えた文氏も、正恩氏に促されて一緒に仕切りを逆に越えて北朝鮮側に入り、両国の融和を印象づけた。(高陽〈韓国北西部〉=武田肇

Author: asiapeace