金正恩朝鮮労働党委員長トランプ米大統領

トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談が12日午前シンガポール南部のセントーサ島にある高級リゾート、カペラホテルで始まった。

トランプ米大統領と北朝鮮金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長による史上初の米朝首脳会談が12日午前9時(日本時間同10時)、シンガポール南部のセントーサ島にある高級リゾート、カペラホテルで始まった。両首脳は最大の焦点である北朝鮮の非核化についての合意をはじめ、朝鮮戦争の終結に向けた合意文書に署名することを目指している。両首脳は、首脳会談の成果をまとめた共同声明を発表する見通しだ。

会場のホテルに到着後、トランプ氏と正恩氏は午前9時4分、報道陣が待ち受けるなか、米国と北朝鮮の国旗前に現れて握手。短くあいさつの言葉を交わして、写真撮影に応じた。

 その後、会談場に移っていすに座り、トランプ氏は「本当に素晴らしい気分だ。私たちはこれから素晴らしい議論をして、大いなる成功を収めるだろう。栄誉あることであり、素晴らしい関係を築けると確信している」と切り出した。

 続いて正恩氏が「ここまでくるのは容易ではなかった。私たちの足をひっぱる過去があり、誤った偏見と慣行が私たちの目と耳をふさぐこともあったが、そのすべてを乗り越えてここまで来た」と述べると、トランプ氏は「その通りだ」と応じ、再度握手した。

 両首脳は通訳だけを交えた一対一の会談を38分間行い、ポンペオ米国務長官ら幹部を交えた拡大会合に臨んだ。トランプ氏は冒頭、「あなたとお会いするのはとても光栄だ。私たちは大きな成功をともに収めるだろうと思っている。そして私たちはこれまで未解決だった大きな問題やジレンマを解決できるだろう」と語り、正恩氏は「困難はあるだろうが、(トランプ大統領とともに)巨大な事業を始める決心はついている」と応じた。ワーキングランチの後、トランプ氏は「大きな進展があった。これから署名する」と語り、成果を発表する考えを示した。トランプ氏は午後に記者会見し、同日午後7時にシンガポールを離れる予定だ。

 トランプ氏は会談に先立つ12日未明、「我々全員、(今回の首脳会談で)過去とは違って本当のディール(取引)が行われるかどうか、間もなく分かるだろう」とツイートした。

 一方、朝鮮中央通信は11日、会談の議題について「新しい朝米関係を樹立し、朝鮮半島の恒久的で強固な平和体制の構築や、朝鮮半島の非核化を実現する問題などで意見交換する」と伝え、非核化を最優先には掲げなかった。

 北朝鮮は、非核化では可能な限りあいまいな合意にとどめ、米朝国交正常化を軸に安全保障や経済的な利益を得る足がかりにしたい考えとみられる。正恩氏の業績を強調し、国内統治にも最大限利用する構えだ。

 首脳会談の最大の焦点は北朝鮮の非核化だ。4月下旬の南北首脳会談では、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と正恩氏が朝鮮半島の「完全な非核化」で合意。米朝首脳会談では「完全な非核化」の実現に向けた具体的な方法や時期を含めた道筋が示されることが期待されている。

 ただ、これまでの事前交渉では、米側が「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)の早期実現を要求する一方、北朝鮮は「段階的な非核化」を主張。米側は段階的な非核化を一部容認する姿勢を示したものの、今回の会談では核兵器の廃棄・搬出や査察の方法、期限など非核化の具体策の合意は先送りされる公算が大きくなっている。トランプ氏は首脳会談を「プロセス(過程)の始まり」と位置づけている。

 ポンペオ氏は11日の記者会見で、「これまでとは異なる体制保証を提供する用意がある」と語り、北朝鮮が求める体制の安全を保証することで、非核化に応じるよう求めた。

 一方、米朝は今回の首脳会談で朝鮮戦争の終結に向けた合意文書に署名する方向で調整している。トランプ氏は戦争終結について「歴史的にとても重要だ」と協議に意欲を示している。非核化で具体的な合意が困難ななか、両首脳の政治的メッセージとして「終結」宣言を先行させることで歴史的な成果を演出する狙いがあるとみられる。

 トランプ、正恩両氏は会談後、首脳会談の成果をまとめた共同声明を発表する予定だ。11日の米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)によると、共同声明は、①非核化②北朝鮮の体制保証③米朝両国が取るべき措置――の三つから成り立つ可能性があるという。

 米朝首脳会談をめぐっては、トランプ氏が3月、韓国政府高官との会談の中で、正恩氏の提案を受け入れて首脳会談に応じる方針を決定した。ポンペオ氏を2回訪朝させて開催に向けて調整。しかし、北朝鮮が開催の「再考」を示唆したため、トランプ氏が突如、5月24日に中止を表明。その後、北朝鮮側が出した談話などを一転して評価し、今月1日に予定通り開くことが決まった。(シンガポール=園田耕司、武田肇

Author: asiapeace